『不易流行と武士道2021~脚下を照らせ!~

 師走の候、皆様におかれましては益々ご清祥のことと存じます。
 さて、今回は脚下を照らせ! というテーマでお手紙をお届けいたします。

 脚下照顧。
 禅で使われる言葉だ。
 我が身を振り返り、自分の立場をよく見極めて事に当たれ! という意味だ。

 今回、とある裁判の判決を見てその脚下照顧という言葉を想起した。
 それはご主人を胆管がんで亡くされたご家族による免疫治療を実施した医療機関及び製造・販売を担当していたセルメディシン社を相手取る訴訟である。冒頭、ご主人を胆管がんで亡くされたご家族の方には心より哀悼の意を捧げたい。

 さてセルメディシン社は自家がんワクチンをリードしてきた老舗の1つであり、ここの経営者は理論家であり、誠心誠意の人物として知られている。

 一方、取材した情報によれば原告側の論理的支柱になったのはSNSで著名な腫瘍内科の医師であり、彼が意見書等を取りまとめたようだ。

 この人物は、免疫治療はインチキだという論陣を張っている一方、気鋭の医師としても活躍している人物である。

 そしてこの裁判でセルメディシン社の自家がんワクチンは第3相試験を経てないので有効性を確立できないものだ、と主張する一方、セルメディシン社も反論を行うという展開であった。文字通り、標準治療が免疫療法を駆逐しようという構図だ。

 しかし先日の裁判の判決はセルメディシン社の自家がんワクチンは有効というもので、医療機関には胆管がん等に適用する旨の論文が出ていない説明が患者にしっかりと行われていなかったとしてインフォームドコンセント違反という判断が下されている(これについては現在、控訴するかどうかを医療機関は検討しているようである)。

 つまり自家がんワクチン=免疫療法が有効だと裁判所は判断したわけだ。

 他の皆さんもブログで触れていることだが、免疫療法にとっては朗報であり、画期的な判決である。

 同時に今後は医療機関の同意書もより厳しいものに移行することは予想されるし、患者の側もある程度の知識を備えておくことが重要な時代を迎えることになるだろう。

 これに合わせてむしろ全体的統一的治療から患者1人ひとりの症状に応じたプレシジョン医療への扉も少しずつ開いていくに違いない。

 とりわけ原告側のバックボーンにいた医師が強行に第3相試験を経てないものは有効性がないと主張してきたことを、裁判所も第3相は必ずしも必須ではないと認めたことは大きい。

 今回、特に希少がんや難治性がん、さらに緊急的措置が必要な患者に対して偽薬を投入することに対する倫理的、人道的問題を排除したまま、第3相を金科玉条的に主張する是非自体が問われたに等しい。

 ともあれ今回の判決は双方にとって脚下照顧となるべきであり、患者の皆さんだけでなく、今、健康な人々たちにとっても大きなテーマを投げかけるものであった。と同時に私が想起したのは、脚下照顧のもう一つの意味の方だ。

 それは『他人の批判はできても自己批判は難しく、他人のことを論ずるよりも、まず自分自身を見つめよ!』というものだ。

 確かに叩かれて当然のクリニックもあるだろう。しかし誠心誠意、患者のことを考えて向き合っている医療者も多いのだ。

 免疫療法批判に血道をあげるよりも、その医療者の方も標準治療が最善であり最高であることを目指せば、法廷に持ち込む前に自ずと悪質なものは駆逐されていくのではないだろうか。

 だからこそ、今回の著名な医師には脚下照顧で、抗がん剤の副作用軽減について、その持てる優秀さ、かつ情熱を傾けていただきたいものである。

 さて、いよいよ『世界がん撲滅サミット2021 in OSAKA』も開幕を迎える。これまで我々を支えてくださった大阪府、大阪市をはじめとする関係者、後援団体、協賛社の皆様、そして入場エントリーをいただいた患者、ご家族をはじめとする皆様に心より感謝申し上げたい。

12月5日(日)、ここからすべてのがんにリベンジが始まるのだ。
大阪の皆さんをはじめ、世界の有志たちと共にがん撲滅に向けて前進を開始しよう!

寒い日が訪れますが、春は必ずやって来る。
その日を信じて皆さん、ゆっくりと頑張ろうではないか。

中見利男拝

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