ご無沙汰しております。
去る10月22日(土)午後2時(開場午後1時30分)より開催されたがん撲滅サミット2016は、政府、経団連、経済同友会、日本商工会議所、日本癌治療学会、ご協賛社、ご寄付をいただいた方など多くの皆様方のご支援により無事に終了することができました。
心より感謝申し上げます。
さて、ここからは当日までの反省と教訓についてお話しさせていただきたい。
そもそもがん撲滅サミットは、
① 患者に合わせた最善のがん治療とチーム医療の充実した社会の構築
② がん難民の救出と緩和ケアの充実した社会の構築
③ がん予防と早期発見社会の構築
の理念を追求し、政府、財界、官庁その他の皆様と共に、がん患者の方々を一人でも救出し、社会復帰の実現を応援したいという思いからオールジャパンの取り組みを提唱。2015年6月9日に第1回大会が旗揚げされ、高円宮妃殿下のご来臨を賜り、会場で次のような歴史的なお言葉を頂戴した大会である。
『何事においても、攻めなければ負けしかない中、撲滅を目指すぐらいの意気込みが必須と感じます。お身内にがん患者がいらっしゃる作家でジャーナリストの中見利男氏の「オールジャパンでがん撲滅に立ち上がろう」という呼びかけに、医学医療のみならずあらゆる分野の方が賛同されたことによって、ここに新たな挑戦が始まるのを心強く思っております。同じ志を持った多くの人間が同じ方向に動けば、大きなエネルギーがうまれます。かかげておられる目標の中でも、特にがん最先端医療において個々の患者、治療へ直結する医療のベストミックスを早急につくりあげていくことは重要であり、医師力を増進するのは当然として、患者力の向上を目指すのは実に意義深いことと考えます。』
このお言葉を頂戴したことから、がん撲滅のその日まで我々は忍耐強く、辛抱強く前進していく覚悟を改めて持つに至ったのである。
がん撲滅サミット2016もそのような次第から、もともとは独自開催を予定していたが、日本癌治療学会の中野会長が正式に会長にご就任される前の2015年7月に「あのサミットは素晴らしい。来年の日本癌治療学会と共催でやれるよう検討しませんか」という貴重なご提案をいただき、我々は日本癌治療学会との共催実現に向けて申請作業その他を行ったのである。
2016年10月4日になり一部患者団体の方から公開セカンドオピニオン登壇予定医師に対して日本癌治療学会に抗議が入ることとなり、同時に大手新聞社3社が取材に入っているとの話がもたらされた。
我々としては当該すると考えられる医師の方々には取材もし、長時間面談したうえで、保険適用を第一に考えた上で診療に当たっておられると判断して登壇をご依頼しているので怪しい治療をやっている医師など一人もいないという認識であった。エビデンスがないとの点を強調されておられる点については、すい臓がんのように重いステージの患者の方々からすれば別の視点があるはずなので、当該新聞社は該当すると言われている医師の方々や別の視点をお持ちの様々な患者団体の取材も行ったうえで記事を掲載されるのだろうと判断していたのである。
ところが10月5日になって運営事務局に、公開セカンドオピニオンを中止しなければ当日、会場に抗議に行くという脅迫的な電話が入ったことから、昨今こうしたイベントさえソフトターゲットの時代にあることも考慮して、戸部警察署にも足を運び、当日の打ち合わせを念入りに行ったのである。そして帰路、鈴木会長や三好副会長、堀先生と電話で協議し、このまま敢行すれば当日、足を運ばれるがん患者の方々に無用なストレスや不安を与えることになるという医師としての観点から、お二人は公開セカンドオピニオンと大会の実行委員会から身を引かれたのである。(なぜ当日、会場での注意をHPで掲載するに至ったかはこういう事情であり、一部の人々がエビデンスの質問があれば退場させるなどと仰るようなことは全くない。)
もちろん、その旨は10月5日の夕方に鈴木義行大会長を通じて日本癌治療学会に申し入れを終えていた。そして大手紙の記事掲載となり、我々は大混乱の中に身を置いた次第。
混乱収拾と新企画の実行という難しい舵取りを行いながら、がん撲滅サミット2016は、ようやく当日の実施に漕ぎつけることができたのである。
その間、我々に対してなぜ公開セカンドオピニオンを中止したのか、という抗議の声もあったため、運営事務局を通じて以下のようなご回答を送らせていただいた。
『ご丁寧なメールありがとうございます。
これまで私共は、がん撲滅という旗の下に様々なステージに立っている方々がいらっしゃることを重々承知しておりましたが、まずはがん撲滅の旗を立てて多くの方々に知恵を出していただき、前進させようと考えておりました。
今回、様々な声が私共に寄せられ、まさに多様性を持つダイバーキャンサーの時代を改めて認識しております。
したがいまして、今回は小児がん撲滅も含め、様々ながんと闘っておられる方々をご支援させていただくための良き戦術を練る第2回大会と位置づけられると考えております。ちょうど小説にたとえるなら、第1回を「起」とするなら、第2回は「承」となり、承は承るという意味でもありますので、皆様の声を承り、第3回の「転」、すなわち前転、回転と前へ進めるステージにつなげていくための大会だと考えております。
どうか皆様におかれましては、日々の闘いの中で私共も皆様と一緒に闘っているということを少しでもお感じになっていただけますと幸いです。
どうぞがん撲滅サミット2016にご来場いただき、「がん撲滅」の旗そのものを倒さぬよう闘う私どもの姿を見守っていただけますと幸甚に存じます。
日々、ご多忙と存じます。どうぞご自愛ください。
がん撲滅サミット2016運営代行事務局』
文中にあるように私は最初に抗議をなさった患者団体の皆さんの勇気ある行動に対しても、逆になぜ公開セカンドオピニオンを中止したのか、という抗議を寄せて下さった方にも、またがん撲滅サミット頑張れという声援をくださった全国の皆さんにも感謝を申し上げたい。
何より混乱のさなかにご寄付をくださった方や後援OKをくださった政府機関の方にも心より感謝申し上げたい。当日足を運んでくださった方を含め、こうした方々のことを私は「嵐の友」と呼んでいる。嵐の夜に熱を出して倒れていることを知り、風雨の中でも「おい、大丈夫か?」と見舞いに来てくれるような友こそ真の友と呼ぶのである。
今回このような嵐の友から何人も何十人も、いや全国から無数に声が寄せられたことも、実にありがたいことだと、改めてここにすべての方々に対して感謝の言葉を捧げたい。なお、サミット開催後の10月28日に前述の記事をお書きになった毎日新聞 高野記者、31日には読売新聞 西原記者にそれぞれお会いし、がん撲滅サミットを起ち上げた理念や今回の事情についてお話しさせていただき、共にがん医療の現在、将来、未来について共に語り合い、考え方の違いはあっても志をご理解をいただけたと認識している(朝日新聞のご担当者とも今後、お会いさせていただく予定である)。
そもそも私は患者の皆さんのステージの違いやがん種の違い、また進行度の違いや早期社会復帰が可能かどうか、発見されたときには余命宣告を受けてしまうがん種があることも十二分に知り尽くしている。だからこそ、第1回大会で皆さんがSOSを発信するために公開セカンドオピニオンの中で必死に手を挙げて、自身の病状を相談されたことを忘れることができず、今回もそうした方々のお役に立つこと。がん撲滅サミット2016では、これこそを重視していたのである。エビデンスの議論は日本癌治療学会に譲り、こちらは一人でも多くの患者の皆さんのご相談に応じる。これが両輪となり、最高の大会にしていくつもりで準備を重ねていたのであって、インチキな医師の告知をし、患者さんをそちらに誘導する思いなど微塵もあろうはずもない。むしろ、そのインチキな医療と区別することこそが、今も重要だと考えていることをお断りさせていただきたい。事実、当日、政府高官に「がん難民を救う治療法があると思うので非標準治療の中から優れた治療とそうではない治療とを区別する必要がありますね。でもインチキな治療法については立ち入り調査をするなり、アクションを起こしてください」とお願いしたところ、逆に「新しいチャレンジがなければ医療は発展しない。国も民間と力を合わせて、そのあたりの峻別を厳しく患者さんのためにやっていきましょう」とのお話もいただいているほどだ。
立場の違いやステージの違い、色々あるであろう。しかし敵はがんであって、患者同士でも医師同士でもないはずである。
たとえば、がん研究会の創設者の渋沢栄一翁や山極勝三郎先生は、はるか120年近く前にすでにがん撲滅によって、人類の福祉に貢献することを目的にがん研究会を立ち上げられたのである。理想と現実の壁は確かにあるだろう。しかし物事新しいことにチャレンジしなければ多様ながんに対抗できないのである。
そのことを私も含めて多くの皆様と一緒になって考えて参りたい。そしてメディアの方々にも、まず怪しいかどうか、高額医療を押し付けているのかどうか、患者団体にもいろいろなステージの患者の方々の集まりがあることも、よく取材したうえで医療問題を論じていこうではないか。逆に抗がん剤治療、標準治療、緩和ケアを行っている医師や患者の皆さんの悩みや最新の動向、さらにはこうした人々が直面している課題の解決に向けて私も尽力させていただきたいと考えている。今回、そのような方々の情報に接することができたのも雨降って地固まるの証かもしれない。
今回、一部の医師の中で後援団体の皆様にも抗議をして、後援中止を求めるような動きが起きたことを私は承知している。また騒動に便乗して実行委員会のメンバーの名誉を棄損する行為があったことも承知しているし、さらに詳細を調査中でもある。だが、共にがんと闘っているという意味で、いつか手を携える日がくればとも思っている。
大事なことは共に抱えている問題点を出し合い、国に動いていただけるように尽力することであり、互いにバッシングし合うことではない。
というのも、がん撲滅サミットはがんを通じて世界中の人々と志を一つにすることのできる医療の平和活動だということである。この旗の下では人種も国境も宗教も肌の色も関係なく、いかにすればがんと、がんを取り巻く環境を改善するかという話し合いが行われる絶好の機会なのだから。
事実、2016年1月のオバマ大統領の一般教書演説でがん撲滅にアメリカが国を挙げて取り組むことが宣言され、バイデン副大統領が9月に入って日米韓保健相会議で、がん撲滅ムーンショットイニシアチブによってネットワークを創設することが決定し、がん撲滅は世界の合言葉になりつつある。ムーンショットとは、ケネディが月に行こうと叫んだことがきっかけとなって、それまで不可能だと考えられていた月への有人飛行をアメリカが実行した故事にならい『不可能を可能に変える』という意味で使われているチャレンジングな言葉だ。
最後に、公開セカンドオピニオンの中止によって、多くの全国のがん患者が、どこに行けばいいのか、わざわざ足を運んで本当に診断してもらえるのか、治療してもらえるのか、と本当の意味で藁をもつかむ思いでいらっしゃる方々の知る機会を奪うことになったことを教訓、反省材料として次回大会に備えたい。
標準治療を推進される方も、緩和ケアで悩みつつも前進しておられる医療者の方々も、患者の皆さんも、重いステージで苦しんでおられる患者の皆さんも第3回大会にぜひともご期待いただきたい。
いずれにせよ、医療も、がんも、人の命も、一時的な対立や認識の違いや誤解も、すべて世の中の森羅万象は『変化するということだけが変化しない』のである。
大事なことは、国も民間も力を合わせてがん患者の皆さんに対して、希望ある環境を少しでも構築していくことではないだろうか。
中見利男拝