震災対応と日本の病院の真実

 前略 早いもので今年もクリスマスが近づいてまいりましたが、皆様におかれましては益々ご健勝のこととお慶び申し上げます。
 さて、3.11以後、私は東京女子医大副院長の田邉一成先生とともに災害時の救済機関となる大病院の災害対応について、早急に手を打つよう政府関係者や要人に対して提言活動をして参りました。今回はこの件についてご紹介させていただきます。

災害対応型病院の普及と医療改革について
 東日本大震災の教訓を元に、以下の災害対応型病院の改革案をご提案致します。東北の復興をはじめ、今後、起こり得る直下型地震に対応した拠点病院造りが急務です。
 ところが、現在の災害拠点病院の実態を考えるとき、東日本大震災でも明らかになったように、ひじょうに脆弱な対応しかできないというのが実情です。それは東京都の大病院においても同様で、直下型大地震のときには、おそらく未曾有の大混乱が予想されます。
 そこで国家防衛の観点からも、ぜひとも現在の名前ばかりの災害拠点病院のあり方を見直した上で、実戦的災害対応型病院への改革を速やかに断行すべきです。その際、防災部門のオーソリティである国交省や防衛省、特に自衛隊や米軍などの野戦病院対応などのノウハウの共有が欠かせません。
 したがって、病院の災害対応を強化するために、国交省関係者、防衛省関係者と医療関係者の情報共有の機会を早急に作り出す必要があります。
 以下、提案事項をまとめました。

免震:
震災時に入院患者が病院からの退去を必要としないこと。
手術をはじめとした通常通りの診療ができること。

水の確保:
井戸水の利用が現実的である。
緊急時には病院での利用のみならず近隣の住民への水の供給も可能となる。

電気の確保:
自家発電、太陽光発電を利用して震災後少なくとも2週間は停電を乗り切る。

薬剤の確保:
主に救急対応で必要とされる100前後の薬品を院内に3週間分は備蓄しておく。

医療従事者の確保:
災害時の医療従事者の確保は必須。
病院内にレジデントハウス設け、初期研修医、ナースを確保する。
また医師免許、看護師資格取得の際に災害時の医療対応についての取り決めを行うこと(今回病院から逃げた医療関係者によって入院患者に死傷者が出たため)
災害時、大量の救急外傷患者の受け入れができるスペースの確保が必要:
会議室、駐車場などはいったん災害が発生した時は患者を収容できるように設計。

その他の病院に求められる要件:
震災後はほとんど戦場のような状況となるため感染症、その他の二次被害を防ぐために個室型の病室にする。

震災被災患者のプライバシー確保:
東北大震災においても避難所のプライバシーの確保などが問題となり、その後の健康状態に大きく影響することもすでに指摘されている。

震災被災者の感染症などによる2次被害防止:
震災時は感染症については完全には把握できない状況となる。個室化することにより院内感染症を自動的に防ぐことが可能。

個室化の推進のための低価格個室建設:
もっと効率よく低価格の個室作成をできるように検討。

病室のIT化:
震災時は医療スタッフの極端な不足が予想されるため可能な限りIT化しておくことが必要。

今回の東北大震災を見るまでもなく、ほとんど戦場と化した現場での医療については、当然のことながら自衛隊や米軍のもつ緊急病院対応などのノウハウなどを導入していくことも必要になると考えられます。また病院建設には、設計士や学者など有識者のノウハウ、さらに前述のように防災のプロフェッショナルの意見の集約が不可欠です。
このような観点から厚労省の医療関係者、国交省関係者、防衛省関係者等による災害医療フォーラム(仮)ないし、連絡協議機関の設置を検討すべきです。あるいは将来的には、病院機能を病院庁として独立させる必要があるかもしれません。
ともかく現在のままでは、大災害が起こったとき病院が機能しないことは確実です。
なお上記提案については、もちろん各病院でペイする方策を練り上げなければなりませんが、戦略的に行なうために国の補助金や無利子融資等の金融的措置が欠かせません。

 あまりマスコミは取り上げませんが、実は一部を除き日本のほとんどの病院(中小クリニックを含む)は災害対応型病院になっていないのです。たとえば、3日間停電が続いただけで、手術も透析もできない状態が続き、入院患者の中には死亡者が相次ぐ悲惨な状況が待ち受けているのです。
 つまり、大震災が起こったとき東京をはじめ地方の病院がパニックに陥るのは瞭然なのです。にもかかわらず、現状では数少ない有志が尽力しているだけで政府が全力をあげてこの問題に取り組んでいるとはいえません。つまり国家、国民のことを我が事のように考えている政治家が圧倒的に少なくなってしまったのです。
 そこで私は、今回、政治家はもちろん、そういった政治家を生み出している市民、国民の皆さんのために何かのご参考になればと思い、1962年10月に第35代アメリカ大統領J・F・ケネディが直面したキューバ危機を題材にした原稿を執筆しました。『救世主の条件~キリストの暗号』というタイトルの作品がそれで12月2日から角川書店より刊行されます。
 こういう時代だからこそ老若男女、とくに若い人たちに読んでいただきたいと思います。
 冒頭の提言書にもあるように、政治とは何か? また生きるとは何かをそろそろ一人ひとりの市民、国民が真剣に考える時期が来たのではないか、と私は心から思っています。TPPについても議論が分かれるところですが、今、必要なことは反応ではなく未来に向けた対応だということを、ぜひとも強調しておきたいと思います。
 それでは朝晩の冷え込みが厳しくなる季節ですが、皆さんどうぞお体をご自愛ください。

追伸、東日本大震災による震災孤児の皆さんを支援しております。福島県相馬市のHP( http://www.city.soma.fukushima.jp/0311_jishin/tunami_orphan/tunami_orphan_J.html )などをご覧いただいたうえで、ぜひともご協力のほどお願い致します。

中見利男拝

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