立春の候、皆様におかれましては益々ご活躍のことと存じます。
本年も何卒よろしくお願い申し上げます。
さて、1月11日(金)午前、皇居宮殿で天皇、皇后両陛下が学界の第一人者の皆さんから講義を受ける「講書始(こうしょはじめ)の儀」が開かれました。そこで講義をされた方々のお一人は昨年、ノーベル医学・生理学賞を受賞された本庶佑先生でした。本庶先生は天皇、皇后両陛下や皇族方が居並ぶなか『免疫の力でがんを治せる時代』というテーマで15分間にわたってお話をされました。
ちなみに講書始の儀とは1869(明治2)年に明治天皇が開いた「御講釈始」が始まりで、その目的とは天皇が、その時代に必要な知識を学ぶというものです。事前配布資料もスライドも基本的に使用しないため、文字通り、言葉を尽くした真剣な講義が行われるわけですが、天皇、皇后両陛下をはじめ皇室が『免疫学及びがん免疫療法』を、この時代に必要な知識として認められ、実地に本庶先生から講義を受けられたということ。これは実に画期的なことだと私は思います。これまでがん医療のアンダーグラウンドを走っていた免疫療法が、いよいよ表舞台に立つ、まさに新しい時代の幕が開いたと言えるでしょう。
本庶先生のご講義を受けられた皇族の皆様の中に高円宮妃殿下もいらっしゃいました。ここで思い出されるのは、2015年6月の第1回がん撲滅サミットにご臨席を賜った高円宮妃殿下のお言葉です。高円宮妃殿下は、開会式において「攻めなければ負けしかない中、がん撲滅を目指すぐらいの意気込みが必須と感じます」と宣べられました。 そして「特にがん先端医療において個々の患者、治療へ直結する医療のベストミックスを早急に作り上げていくことは重要であり、医師力を増進するのは当然として、患者力の向上を目指すのは実に意義深いことと考えます」と続けられました。
さらに「がんに関する先端医療や名医に関する情報を発信することや、患者主体の治療ができる社会を再構築すること、患者や家族が的確な決断のできる医療社会を再構築することなど、患者とその家族の立場に立って考えるのは日本の医療の本質ではないでしょうか」と宣べられたのです。(傍線筆者)
≫ 高円宮妃殿下のお言葉全文
このお言葉を戴いた日から私は、がん撲滅サミットに参加される方は皆さんが高円宮妃殿下のための騎士団であるべきだという信念を強く抱くに至ったのです。チャレンジすべき相手はもちろん『がん撲滅』です。
たとえば、国立がん研究センターの最新がん統計では2017年にがんで死亡した人は37万3334人です。現在のがん医療が完璧に患者を救える段階に至ってはいないのですから、標準治療を含めて、すべての治療法はチャレンジャーでしかありません。
すべてのがん医療ががんに対するチャレンジャーである以上、どのような専門家であっても、まるで神のような視点から他の治療法を批判している暇はないはずです(悪質な治療法への対処は厚労省の専権事項であり、私も以前から対応は強化するよう要請もさせていただいております)。
それよりも大事なことは、高円宮妃殿下がお言葉の中で宣べられたように「個々の患者、治療へ直結する医療のベストミックスを早急に作り上げていくこと」と「患者主体の治療ができる社会を再構築すること」。このことに尽きるでしょう。しかもゲノム医療を中心としたプレシジョンメディシン、AIの活用など、今後、益々この観点が重要になって参ります。
冒頭にご紹介したように2019年新春に天皇、皇后両陛下をはじめ皇室の皆様が新しい時代の知識として免疫療法について学ばれたのですから、我々も頭と心を白紙にして今後益々新しい治療法や先端技術を謙虚に学ぶ必要があるのではないでしょうか。
そう言う意味で、この国に必要なことはがん医療においても新しいチャレンジを開始することです。初心忘るべからず、と私も自分に言い聞かせて、今年もあらゆる面でチャレンジして参ります。
皆様もどうぞご自愛ください。
中見利男拝